医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
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Spiritual Care学会発表/研究/活動

猫×スピリチュアルの研究・第一報― 第18回スピリチュアルケア学会 発表要旨 ―

2026/01/20
NNN(にゃんにゃんネットワーク)現象にみる現代スピリチュアリティ
― 猫をめぐる語りの宗教的構造分析 ―

2025年末に開催された「第18回スピリチュアルケア学会」にて発表した研究内容を掲載。

◆学会名: 第18回スピリチュアルケア学会
◆開催日: 2025年11月8日(土)~2025年11月9日(日)
◆会 場: 天理大学(杣ノ内キャンパス)
◆発表者: 植田 美津恵

 近年、インターネットを中心に、伝統的宗教とは異なるものの、宗教的な特徴を備えた「疑似宗教」と判断できる語りや実践が数多く見られるようになってきた。この状況は、19世紀欧米において心霊主義が唯物論の対抗概念として、あるいは伝統的・制度的宗教の後退が生んだ「ニッチ」を埋める思潮として自然発生した経緯と類似する。
疑似宗教、または亜宗教のひとつとして、猫を媒介として語られる「にゃんにゃんネットワーク(NNN)」という現象がある。NNNは、猫がある使命をもって、かつNNNというネットワークそのものが有する意思によって“派遣”されてくるという都市伝説的な語りに端を発し、SNSを中心に多くの共感と共鳴を生み出しているものである。一見ユーモラスなこの語りは、NNNが都市伝説であることを認識しながらも、死別や偶然の出来事に意味づけを行うことで、語り手と聞き手双方に癒しと倫理的転換を促すという点で、現代スピリチュアリティの実践ともいえる構造を持つと考えられる。

 本研究では、ミーム文化としてのNNN現象がいかにして宗教的な構造とスピリチュアルな語りの力を獲得しているかを明らかにする。具体的には、YouTube・InstagramなどSNS上の匿名投稿、並びに日本猫ねこ協会の会員から寄せられたNNN体験(n=45)の収集・分析をおこなった。投稿内容を ① 宗教機能的視点(超越的存在の有無/救済/儀礼性/共同体性/戒律)と ② スピリチュアリティ視点(自己物語化/癒し・再生/霊性/個人性と緩いつながり)で分類し、NNNに関する語りがどのように共有され、どのような感情的・倫理的機能を果たしているかを考察した。その結果、次の4点が明らかになった。

  1. 死別後の猫との再会や、そっくりな猫の登場がNNNからの“派遣”として語られ、グリーフケアの役割を果たすとともに、死の再意味化と癒しの語りとなっていること
  2. NNNの「審査」「選ばれし者」という語りが「猫へ服従する私たち」という自己認識を示し、ここに倫理的変容(超越的存在への気づき)への促しも見て取れること
  3. SNSを介して語りが共有されることで、伝統的・制度的宗教に依拠しない共同体的霊性が生まれていること
  4. これらの語りが「偶然」や「運命」あるいは「神秘的」といった現代的スピリチュアティの枠組みを補強していること

 宗教とスピリチュアリティはともに、「聖なるものとの関わり」をめぐる事柄であると定義されているが、NNNもまた、猫を通じて「癒しや安らぎ」を覚えた者たちには、「聖なるものとの関わり」と感じられているのではないか。

 本研究は、NNNという軽やかなミーム的語りに内在する意味づけと癒しの構造を明らかにすることで、現代日本におけるスピリチュアル実践の一側面を可視化し、NNNを基盤とする宗教的語りの可能性と意義を再考するものである。

2026/01/20 猫×スピリチュアルの研究・第一報
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