医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

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コラム「一刀両断」コラム「一刀両断」の連載。

2005年8月3日~2006年1月18日掲載
たまたま石綿

 アスベスト騒動がうっとうしい。その狂騒ぶりは、今の健康ブームと同種のものにみえてならない。「死にたくない」「病気は嫌だ」「いつまでも健康でいたい」…って、気持ちはわかるがそんな都合のいいことあるわけないだろうに。最近の健康ブームは、まるで人間が不老長寿であることが当たりまえであるかのごとくの様相である。健康でいたい願望を持つのは当然だが、願望イコール病気にならないことを意味するわけではない。人は長く生きれば生きるほど確実に死に近づいているのだから、まずはその事実を受け入れる「常識」が必要。その常識が欠けているために病気や死を異常に忌み嫌い、健康をおびやかす悪いモノに対し過剰に反応する傾向は病気になるよりよほど恐ろしい。話題は石綿。すでに、石綿が肺がんのリスクファクターであることは医療関係者ならとうに知っている。いや、むしろ最近の若い医療従事者は知らないかもしれない。それほどテーマとしては「ふるい」。「知っていたなら何故対処しなかった」…、この点が今の批判の声だろうが、世の中には健康に悪いものがあふれている。しかもその影響はじわじわと緩慢に迫ってくる。そう、タバコと一緒なのだ。そのひとつひとつを個人の罹患リスクと照らし合わせ、結果それらをすべて除去しようとしたら我々の生活は絶対に成り立たない。報道を見て思うのは、石綿って結構リスクとして影響大だったんだな~という、事実確認によるしみじみとした感慨である。放射線技師という仕事がある。大きな機械を駆使し、レントゲンを撮るのが職務。当然、毎日放射能を浴びる。微量とはいえほとんど毎日放射能にさらされていればどうなるか。最悪白血病にかかる人もないとはいえないが、確実なことは精子の量の減少である。同様に、石綿を扱う仕事に就いている人の肺がんのリスクは高くなる。だからこそ、定期的な検診がその他の職業の人よりも重要になる。しかしどちらも職業としては貴重な任務。誇りを持って日々労働していることだろう。がん家系の人はそうでない人よりがんになるリスクは高い。長生きの家系の人はそうでない人より長く生きる確率は高い。髪の毛の薄い家系の人は、ほとんどはいずれハゲになる。 だからどうした。この世はすべて確率と選択とリスクの世界であり、確実なのはすべての人間は死ぬということである。それが嫌なら一刻も早くこの世とおさらばするしかない。

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