医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

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コラム「一刀両断」コラム「一刀両断」の連載。

3月1日~4月7日掲載
「激増する10代の中絶」の受け止め方

 たびたび話題になるのが「十代の中絶」である。古くて新しく、先が見えるようで見えないテーマだ。東京都の性教育研究グループの調査によると、高校3年生の性経験者は男子37%、女子46%であった、という。さらに、援助交際を「よくない」と思う男子は27%、女子は38%だそうで、売買春行為に対し、男女とも大半がこれを容認している実態が明らかになった。また、一昨年は未成年者の妊娠中絶が過去最高の4万6511件で、これは15~19歳の女子77人にひとりが中絶したことを意味し、この数字は5年前の2倍であるという。以上のような一連の実態を、驚き、かつ危惧するコメントが2月23日読売新聞日曜版に掲載されていた。あらゆるこの種の調査結果が、高校生の性経験者が年々増加傾向にあることを示している。しかし、これは当然のことだ。これだけ性の情報が蔓延しているのだから、むしろ経験者は増えていないとおかしい。若者の様子やテレビ番組を見ても、さもありなんという感じ。今さら驚くことでもないだろう。性経験者が増えれば、おのずと中絶も、性病も、性犯罪も増える。充分予想できることである。なのに、こういう数字をことあるごとに引っ張り出してきて大げさに問題視してみせるのが通常の反応だ。そして、正しい避妊法を教えよう、とか、性について語り合おう、とか、性教育を充実させよう、という言葉で締めくくって、あとはもう忘れてしまうのだ。しかし、どれだけの人が「正しい避妊法」を口にし、実行することができるだろう。極めてライベートな部分である「性」の何を語ればいいというのだろう。性教育を充実させるのは誰なのだろう。どれも答えがないのに、いかにも知恵のある大人の顔をして解決策を述べてみせるのは何だかウソクサイ気がする。いくら学校で教えてもらってないとはいえ、SEXしたら妊娠する、ぐらいのことはいまどきたいていの子は知っている。避妊しなかったり、避妊に失敗して妊娠してしまったら、当人の責任を問う声があってもおかしくはないし、「運が悪かったね」と言って慰めるのもいい。あまり「未成年」という枠の中で考えすぎるとコトがおおげさになってしまうが、その経験を生かしていこうとする本人への周囲の後押しやあたたかい見守りこそが大事。中絶という行為のみを取り上げてそこで終わってしまっては意味がない。若者批判の前に、大人の性行動を見直すべきとの意見もある。それはごもっとも。「未成年の」調査結果と聞くと目くじら立てたくなるが、同様の調査を老若男女全国民に対しておこなっても似たような結果が出ることだろう。その結果こそが現代の日本そのものであり、現実なのだ。大手のマスコミは立場上仕方ないのだろうが、調査結果として出てくる数字や「未成年者の実態」に今さら驚いたり騒いだりするのは「ポーズ」にしか見えず、あまりに凡庸すぎる取り上げ方ではないだろうか。ときには、この数字が示唆する現実を受け止める勇気を表し、黙々と淡々と動向を見守る、という冷静な姿勢を紙面に打ち出してもいいように思うが、どうだろう。それでは記事にならない、との声が聞こえてきそうである。ではせめて、「じゃ、何歳になったらSEXしてもいいの?」という若者の、素朴な質問に答える姿勢や雰囲気、センスだけでも見せて欲しいものでる。

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