医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラム「がんについて」コラム「がんについて」の連載。

11月6日 「がん」について 51
EBMは可能か?2

 EBMの目的は、提供する医療を決める際に、処方権を持った医師の個人的な経験やカンだけでなく、科学的に証明された医療を最優先に考慮することで医療の質を向上させるというものである。
 しかし、この新しい概念を実践することは日々忙しく臨床で働く医師たちには困難な技であり、しかも医学界独特の医局制度の存在がEBMの普及を阻んでいる傾向にもある。
 一方で、だからこそ、つまり医局制度の悪い側面を正すためにこそ、このEBMを広めていくのだといった意見もある。EBMに基づいたガイドラインができ、医師や患者双方に定着すれば、情報開示につながり結果的に閉鎖性の強いこの業界にとってプラスに働く効果を狙っているのだという。
 今年、帝京大学医学部付属市原病院薬剤部の清水秀行氏は、122施設の医療機関を対象に行ったアンケート結果を報告している。その中に、各施設内の薬事委員会の資料作成時にEBMをどれくらい考慮しているか否かをたずねた項目がある。
 それによるとEBMを考慮しているとする施設は41施設(41.8%)、考慮していないと答えたのは57施設(58.2%)であったという。
 この結果について清水氏は、現場担当者のEBMという用語の受けとめ方、理解の程度に差があるのだろうと考察している。
 また、市場調査会社の矢野経済研究所は、医学・薬学・看護学など医療従事者の教育の問題にも触れつつ、現状の医療現場ではEBMの実践は難しいとの見解を述べている。
 EBMに則ったガイドラインの作成が現在各種専門委員会で盛んに行われているが、その委員会はせいぜい10数名の見識者で組織されており、それはアメリカのガイドライン作成体制が100人以上で構成されているのに比べ圧倒的に数が少ない、とまず問題提起をする。
 また実際できあがったガイドラインは、アメリカの研究結果をそのままそっくり応用しているものもあるという。
 薬剤の承認に関しては、いくらアメリカでその効果が認められていても、人種差を考慮し、日本でも治験を行わなければまず認められないが、それに比べるとガイドライン作成に関しては随分甘い印象を受ける。

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