医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラム「がんについて」コラム「がんについて」の連載。

9月11日 「がん」について 43
白血病を知ろう

 先回も白血病に触れたが、今回は不足していたところを補いつつ治療について若干紹介し、読者の方々にさらに関心を深めてもらいたいと思う。血球のがんである白血病を急性・慢性と区別していても、両者のがん化機構はまったく異なっており、通常の概念どおり急性であったものが慢性化するということを意味するわけではない。
 急性の白血病は文字通り急性に経過しそのまま放っておくと死をもたらすが、慢性白血病はたとえ治療をしなくても数年は慢性的な経過をたどる。急性白血病と慢性白血病の比は約四対一で、急性白血病のうち骨髄性とリンパ性の比は成人で約四対一、小児では約一対四と数字が逆転する。
 全体の白血病発生率は年々増加傾向にあり、他のがんと同様に女性より男性に多いといわれる。
 小児に多いがんとして知られている一方で、高齢者になるにしたがって発生率がより高くなる点は、これも他のがんと同じ傾向を示している。
 治療は、薬物療法や化学療法、多剤併用療法などが行なわれるが、浜松医科大学第三内科の大野竜三氏の紹介による「治療理念」という概念は、「白血病細胞を一個も残さずゼロにするまで徹底的にたたく」ことを基本としている。
 それがすなわち「治癒」であり、白血病の治療はこの理念によって生まれ、進歩を遂げてきた。
 また、最近では「骨髄移植」の言葉もかなり耳慣れてきた。これは、白血病細胞を一個も残さない治療を行ったあと、回復しなくなる骨髄中の造血細胞を、他人の骨髄を移植することにより血球を回復させようとする治療法である。血液細胞を作る基は骨髄中の造血幹細胞であるが、この細胞は骨髄中のみでなく末梢血中や臍帯(さいたい)血中にもあり、いずれを用いても治療には有効であることがわかってきた。
 出産を控えた母親が「臍帯血を使ってほしい」と話すCMがあるが、臍帯血の提供はまさしく白血病治療のための貴重な行為となりうる。移植につきまとうのは提供者側と患者の相性、つまり「適合性」の問題である。
 せっかく移植に協力したいと思っても、HLA型(平たくいえば白血球の識別マーク)が適合しないと、拒絶反応を起こしたり、重篤な病状を引き起こしたりする。
 骨髄移植に比べると、臍帯血移植はこのHLA型の適合が厳しくないこと、提供者の負担が少ないこと、移植までの期間を短縮できること-などなどの利点がある。
 臍帯血だと血液量が少ないことがネックであったが、一九九八年には臍帯血の増量が可能になったことから、その制限もほとんど問題にならなくなった。
 移植といっても、臓器移植の場合は「脳死判定」の問題が絡むが、骨髄移植や臍帯移植では同じ移植でも違うものだととらえることができる。
 関心のない人や移植するつもりがない人でも、白血病に関する状況については目を向けて欲しいと思う。

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