医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラム「がんについて」コラム「がんについて」の連載。

8月28日 「がん」について 41
平均寿命との関係

 ニュースでも取り上げられたように、日本人の平均寿命がまた延びた。
 男性が77.64歳、女性が84.62歳となり、平成10年と11年にそれぞれインフルエンザの流行や自殺者の増加などで減少したものの、今年は男性女性とも寿命が延び、過去最高の記録を達成した。
 厚生労働省は、寿命が延びた要因として、心疾患、脳血管疾患、肺炎の死亡率が改善したことと、わずかではあるががんによる死亡率が減少したことをあげている。
 死亡率はり患率とは違うために、がんにかかる人が減ったわけではないことに注意しなければならないが、かつて、がんを含め「三大成人病」と呼ばれた心疾患、脳血管疾患などの厄介な病気の死亡率に改善方向が認められた点には、やはり多少の安堵感を覚える。
 また、ある年齢の者が、将来どんな病気で死亡するのかを調べた統計によれば、0歳は男女ともがんが最も高かった、という結果が出ている。
 しかし、年齢を増すごとに、がんで死亡する確率よりも他の病気による死亡率のほうが高くなる傾向が出てくる。
 たとえば80歳になると、特に女性は心疾患による死亡が一番多くなり、次に脳血管障害、がん、と続く。
 さらに、もし、がんが克服されたと仮定した場合、寿命がどれだけ延びるかを考えると、男性が4.08歳、女性が3.03歳と、他の病気に比べ最も高い数字を示した。
 がんの他、心疾患や脳血管疾患までもが克服された場合には、寿命の延びはさらに倍以上になる。死因の60%以上を占める3つの病気がすべて克服されたとしても、平均寿命は100歳までには届かないのだということが、少々意外であった。
 人々ががんを嫌うのは、長生きしたいためではなく、むしろがんによる「痛み」や「苦痛」を恐れるからではないだろうか。
 だからこそ、楽にあの世に行きたいと、「ぽっくり寺」なるものにお参りに行くのだろう。あるところで、30人ほどの人を対象にどんな病気で死にたいかと尋ねたところ、ほとんどが心疾患と脳血管疾患をあげていた。
 そこには、両者とも発作によって一瞬のうちに死にいたる例が多いことから、がんのような「痛み」「苦痛」を避けられるかもしれない、との期待が込められている。
 もし、がんを克服できたなら、つまり「痛み」などの恐怖を味わわなくてすむのなら、逆に平均寿命は10歳少なくても構わないと多くの人は考えるだろう。
 統計は一種の「めくらまし」であり、こういった数字をどのように解釈するか、が本来大きな課題である。
 また、慣例として寿命が短い国も常に紹介されるが、今回はナイジェリアの、1995年~2000年にわたる平均寿命が50歳前後であることが取り上げられていた。
 あまりの違いに、おおげさなようだが世界における日本の役割は十分果たされてはいないのだと思い知らされるようで、延び続ける平均寿命を胸張って誇ることがなかなかできないでいる。

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