医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラム「がんについて」コラム「がんについて」の連載。

7月31日 「がん」について 37
喉頭がん患者の9割に喫煙習慣

 喫煙と最も関連が深いのは「喉頭がん」である。
 非喫煙者が喉頭がんで死亡する危険度を「1」とすると、喫煙者のそれは、「32.5」倍にも跳ね上がる。タバコといえばすぐに肺がんを思い浮かべるが、喉頭部は吸い込んだ煙が直接あたるため、肺よりも影響が出やすいといわれる。
 同様に口腔がんでは2.9倍、食道がんでは2.3倍、膵臓がん・胃がん・肝臓がん・子宮がん・膀胱がんでは1.5~1.6倍の死亡率である。また、喉頭がん患者の96%に喫煙習慣があったというデータもある。
 さらに、ある人が、知人に喉頭がんになった人がいたため入院先へ見舞いに行ったところ、6人部屋の患者たちが全員喉頭がんで、しかも全員がヘビースモーカーであったと驚いていた。
 喉頭は、一般にいう「のどぼとけ」のことで、のどの上部、鼻腔や口腔の突き当たりにできる「咽頭がん」もあるが、こちらの方はうんと頻度が少ない。
 日本では1年間に2,000人から3,000人が喉頭がんにかかり、約1,000人が死亡している。
 喉頭がんの中でも最も多いのが声帯にできるがんで、全体の60%を占める。ごく早い時期から「声のかすれ」という至極わかりやすい症状が出てくるために、早期発見が簡単で治癒率も高い。
 池田勇人首相は下咽頭がんであったが、当時その声を聞いただけで咽頭か喉頭のがんであろうと疑った専門家は多かったと聞く。
 歌い過ぎや大きな声を出し続けたときにも「かすれ」はあるが、喉頭がんの場合はそれが持続し、発熱や痛みを伴わない点が特徴である。
 この他、がんが進行すると血痰やのどの異物感、上向きに寝ると息苦しさを覚えたりすることもある。
 喉頭がんは、Ⅰ期の「声帯にとどまったがん」やⅡ期「声門上部に浸潤しているが転移はない」なら放射線療法の適応となり治りやすいが、Ⅲ期「直径3cm以上の転移が1個」Ⅳ期「喉頭を突き破って食道まで浸潤している」場合は手術の適応となり、声を失うことになる。
 喉頭がん患者には、大きな声で話をするラテン系民族に多いといわれる。
 病院では、喉頭がん患者の病室は明るいという話があるが、それもⅠ期・Ⅱ期までのことだろう。往年に活躍した漫才師のコロンビア・ライトさんは、この喉頭がんにより声を失った。
 しかし、たとえ声帯を摘出しても訓練によって再び声を出すことができるようになる。ライトさんも訓練を続け声を取り戻した。
 といっても以前と全く同じというわけにはいかず、どうしても時々聞きづらいこともある。
 ライトさんはヘビースモーカーだったことを心から悔いており、いかにタバコが体に悪いかを人々に伝えよう、「こうなってからでは遅い」のだと、みずから壇上に立ち、リハビリで得た声を駆使して訴え続けている。
 声を絞り出すようにして話すライトさんの声は、その内容と合わせて不思議な迫力を醸し出している。

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