医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラム「がんについて」コラム「がんについて」の連載。

7月17日 「がん」について 35
舌がんのほとんどは側面に

 子供のころ、嘘をつくとエンマ様に舌を抜かれる、と何度脅かされたことだろう。
 それこそが嘘であることに気がついたのはいつだったのかは覚えがないが、その話はあまりにも有名で、今でも「舌」と聞くと、実際には見たこともないエンマ様の恐ろしい顔が浮かんでくる。
 これまでにも乳がんや皮膚がんなど、自分で気がつくがんを取り上げたが、「舌がん」も同様に自分でチェックできるがんのひとつである。
 舌がんの90%が舌の左右側面、下の大きゅう歯に接する奥にでき、舌の先端や表にできることは大変に少ない。
 舌がんの危険要因は、まずタバコ、次いで酒、諸々の刺激、口腔内の不衛生などである。非喫煙者が口腔内にがんができる危険度を「1」とした場合、タバコや酒の量が増えればその危険度は高くなり、両方とも毎日大量に摂取する人では舌がんになる危険度は「15」にもなる。
 タバコに含まれる有害物質が口腔の粘膜細胞のDNAを傷つけ、酒が体の抵抗力を弱めるためだといわれる。
 インドではがん全体の20%以上が舌がんという、驚くべき数字が出ている。
 常識的に考えても、喫煙率が高く辛いものを好む国柄であり、それらが大きく影響していることは容易に想像できる。
 その他、女性より男性に多く約2倍、50歳代から増えるが、まれに10代、20代にも発症することがある。栄養状態が悪い、アスベストや繊維が大量にある環境、化学薬品やプラスチックの加工に携わっていたこと、などが危険要因ともいわれる。
 また、義歯や入れ歯などが絶えず舌にあたることが慢性的な刺激となって、がん発症の引き金になっていることも指摘されている。
 口腔内と舌は、食べたり飲んだりしゃべったり、と絶えず忙しい部位であるが、その分、食べ物がしみたり、出血を認めたり、何らかの異常に自分で気がつくことができるので、時々は鏡で見ながら観察するといいだろう。
 舌がんの特徴的な症状は、治りにくいしこりができることだが、その前に舌の表面がざらざらしたり、白い班点ができたりする。
 また、びらんや潰瘍ができることもあるが、いずれも単なる舌あれや炎症とは違って、いつのまにか治っているということはなく、がんの場合はしつこく症状が続く。
 そういった際には病院での検査が必要となってくる。さらに、舌がんは、首のリンパ節に転移しやすいという特徴がある。
 首や耳のすぐ下の部位にぐりぐりしたものが触れれば、例え痛みがなくても詳しい検査を受けたほうがいいだろう。
 病院外来を訪れた人の30%にリンパ節転移があったというデータもある。
 嘘をつく人のことを「2枚舌」ともいうが、実際は舌は一枚しかない。大切にしないといけないことを肝に銘じておこう。

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