医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラム「がんについて」コラム「がんについて」の連載。

7月10日 「がん」について 34
ほくろとメラノーマ

 「ワクチン」といえば、予防接種を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。
 通常ワクチンというと、抗原抗体反応を利用した予防のためのもので、毒性を弱めた病原体を用い、あらかじめ体内に抗体を作っておく方法をいう。抗体があれば、ある病原体に感染しても病気にならなかったり、たとえ病気になっても症状が軽くてすむように働いてくれる。
 考え方によっては、がんも個体にとっては「異物」なので、免疫系の働きで消滅してしまうことがあるが、「がんワクチン」というのは、がんにかかった後に免疫機能を強化するために使われるワクチンを指すことから、「予防」というより「治療 」の範疇に入る。免疫系には、色々な役割を持つ細胞があるが、その中でも白血球の一種であるキラーT細胞は侵入物を直接攻撃し、病原体の表面に接触することでそれが病原体かどうかを認識する。
 この原理を利用し、キラーT細胞を増やし、免疫系の働きを強化するのが「がんワクチン」である。
 悪性の皮膚がんといわれるメラノーマの治療として、このがんワクチンの臨床試験が一部で始まっているが、これは、悪性でありながらメラノーマが時に自然治癒することから、その機序が免疫力に関係が深いと考えられるためである。
 しかし残念ながら、がんワクチンによる画期的な効果はまだ表れてはいない。
 皮膚がんで死亡する人は、年間で男女あわせて1,000人前後だから、それほど多いとはいえない。
 その中で、皮膚細胞の中に散らばるメラニン細胞ががん化するメラノーマは、悪性黒色腫とも呼ばれ、早期から転移することで知られる。
 40歳台から急激に増えるといわれるが、最近は若年者と高齢者の発症が目立っている。
 メラノーマができる場所は、「足の裏」が最も多く、全体の26.0%、体躯が10.6%、顔10.5%、上肢(腕)が9.0%、手足の爪が8.5%、膝から下7.7%、手のひらが7.0%である。
 いずれも自分の眼の届く部位であるが、その分見慣れ過ぎてしまい、ほくろやしみだと思い込んで放っておかれることも多い。
 特に足の裏は見落としやすいので、お風呂に入ったときなどに、洗いついでに時々見ておくといいだろう。
 「ほくろががんになるのか」という質問を受けるときがあるが、基本的にその例は少ない。
 ただし、単なるほくろだと思っていたものが、実はメラノーマだったりすることがあるので、ほくろ(と思われるもの)の形が変わったり、他のほくろとはどこか違っているような感じがするときは、病院を受診することを勧める。
 「泣きぼくろ」とか「ほくろ美人」などといい、ほくろの位置による占いもある。
 とりあえず、以前はなかったところにできたほくろについては、それが「凶」に転じないように、しばらくの間鏡でじっと観察を続けたい。

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