医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラム「がんについて」コラム「がんについて」の連載。

6月19日 「がん」について 31
乳がんは自分で見つけよう

 乳がんは「しこり」や「ひきつれ」「乳頭からの分泌液」「ただれ」などの症状によって疑いを持たれる。
 この中では特に「しこり」が重要で、ある病院のデータでは、外来を訪れる人の95%以上が自分で触れた「しこり」が気になってやってくるという。
 乳房は女性のシンボルであり、乳がん手術法には誰もが関心を持つ。少し前までは、乳がんと診断されると、ただちに乳房の全切除と周辺組織を大きく切り取る手術法が主流であった。
 手術後、積極的なリハビリを進めていかないと、腕がむくみ、筋力が低下していく。患者達は膨らみがなくなった胸を悲しむ間もなく苦しいリハビリに耐えなければならなかった。
 乳がんに限らず、一時外科手術というのは、患者の感情やQOLよりも、再発の防止が最大目標であったから、ほとんど否応なしに医療者側の一方的な意図が優先していた。
 最近では、病状によっては切除を最小限にし、放射線や抗がん剤を併用した上で、なるべく乳房を残そうという試みが広がっている。
 早期であることが条件だが、それでも現在ではこの「乳房温存手術」が乳がん患者の30%に適応されている。
 残されるものなら残したいという患者らの願いが、少しづつでも叶えられるようになったのは最も歓迎すべき「医学の進歩」である。欧米では、家族性乳がんが比較的多く発見されているため、思いもかけないことがまま起こっている。
 例えば、保険とのからみがある。ある女性は、母親と姉が乳がんであったことから、遺伝子検査を行い、その結果自分も乳がんになる確立が高いことを知った。
 彼女は乳がんになる前の健康な乳房を切除してしまい、その医療費を保険会社に請求したが、保険会社がこれを認めなかったため訴訟に踏み切ったというものである。
 どこかクレージーだが、遺伝子研究が進めば、もっと色々な事例がでてきてもおかしくはないだろう。
 乳がんは、自己検診で発見したい。
 自分で検診できる数少ないがんであり、時には夫やパートナーがしこりに触れ、それがきっかけとなる例も多い。
 乳がんの検診としてマンモグラフティーという高度なエックス線検査で集団検診する方法が、自己検診よりもその死亡率を低下させるという意味で推奨されている。
 しかし、自己検診の習慣が定着していない段階で両者の有効性を比較するのはおかしい。
 いつ、どんなふうにして自己検診をすればいいのか、どういうしこりに注意しなければならないか―の情報が十分行き届いていないことこそを課題とすべきで、その点をおろそかにしていいはずはない。
 その上で、極く小さいしこりだったり場所からみて触れにくいものだったりする場合を考えて、マンモグラフティーの役割を位置づけるべきだと思う。
 自己検診の「くせ」をつけること、これが乳がんの早期発見の決め手だろう。

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