医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラム「がんについて」コラム「がんについて」の連載。

6月12日 「がん」について 30
男性にもある乳がん

 女性のがんで最近増えているのは「乳がん」である。
 一方で、子宮頚部のがんによる死亡者数は減っている。乳房と子宮、どちらのがんも女性にとっては嫌なものだ。なるべくならなりたくない。
 しかし、女性の願いを裏切るように、乳がんは増え続けている。まず、乳がんにかかる人は昭和40年で4,300人だった。20年後の昭和60年には4倍近い1万5,800人になり、現在では3万人以上にまで増えた。
 その中で死亡する人は、昭和39年で1,857人、20年後には4,417人、平成10年には8,500人以上が乳がんで死亡している。
 それでもアメリカにはまだ及ばない。発生率を見ると日本では80人にひとりであるのに対し、アメリカでは9人にひとりと、罹患数死亡数ともにアメリカは日本の5倍である。
 以前は、40歳台後半に発症のピークがあったが、最近では閉経後の高齢者層に発症する例が増えてきた。これは欧米型乳がんの特徴である。
 乳がんの主な症状は、「しこり」である。乳がんは、専門家の手を借りなくても、自分で触れることのできる数少ないがんのひとつである。私自身3年前に乳房にしこりを触れ、病院を訪れたことがある。かなり経験の豊富な医師でも、しこりが触れた時点で悪性(がん)か良性なのかを判断することはできない。
 X線や超音波検査、細胞診などの検査をしなければならないのだ。検査のために麻酔なしでしこりに直接針を刺し、マンモグラフィでは、乳房をはさむようにして撮影した。痛いし、ある程度の膨らみがないと難しい検査で、ねじれた自分の乳房がかわいそうになった。
 検査やその結果を聞くときの気持ちはどんな立場でも同じであり、何とも嫌なものである。乳がんというとホルモンとの関係がすぐに浮かぶが、本当のところの関連性はわかってはいない。
 統計学的に見ると乳がんにかかりやすい「リスク」として、妊娠の経験がないことや独身、高齢出産、肥満があげられている。
 しかし、小柄でスリムな私の友人は、26歳で2人出産した後に乳がんにかかった。それ以後、あくまでこういった情報は「統計学的なリスク」にすぎないのだと肝に命じることにしている。
 圧倒的に女性に多いがんなので目立たないが、男性にも乳がんは発症する。 極めてまれなケースとはいえ、女性と同様その死亡者数は増えてきており、平成10年の男性乳がん死亡者数は76人であった。
 年齢別に見ると、20代から発症者が現われ、高齢になるにしたがって死亡者数が増えている。知人の男性は30代で乳がんになった。がんといわれた驚きと、女性にしかないがんと思い込んでいたためのショックとで、彼にとってはダブルパンチをくらったような以上の衝撃であったという。

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