医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラム「がんについて」コラム「がんについて」の連載。

5月1日 「がん」について 24
やっかいな膵臓がん

 膵臓という臓器が存在することは、長い間知られていなかった。
 胃の影に隠れた位置にあるため、よくわからなかったのだ。お腹を開いても即膵臓を見ることはできない。胃やその下の脂肪、さらに後腹膜の脂肪の下に位置し、腹というより背中に近い。
 その膵臓がんが、少しづつ増えており、1998年には日本で約1万8千人が死亡している。「増えている」と表現するとき、がんそのものが本当に増えているのか、それとも診断法が発達したためなのかは、実のところ定かではない。
 寿命も伸びているから、一概に比較はできない。明治時代に日本からシアトルに移住した人々の死亡記録を調査した人がいる。
 彼によれば、当時の死亡原因は「けんか」と「自殺」が多いという。けんかの場合は銃で撃たれたり殴られたりしているそうだ。当然平均寿命は今の半分程度だった。文明が進み寿命が長くなると、事故より病気による死亡が増えることだけは確かであるようだ。
 ほとんどのがんは早期発見できれば治る、といわれる。しかし、膵臓がんはその早期発見が難しいため、発見されたときにはすでにかなり進行している例が多い。胃や大腸と違って、食べ物を消化吸収したり通過したりすることがないので、自覚症状を感じない。
 また、なぜ膵臓がんになるのか、その原因がよくわからないために予防のしようがない。そして、たとえ発見できても有効な治療法がない。ないないずくしで、膵臓がんになったらほとんどが短期間で死亡し、5年生存率はゼロに等しいというありさまである。
 一般的にいわれる禁煙や節酒、欧米風の食生活を避けるよう、ものの本には書いてあるが、その因果関係はそう強いものではない。では、どうしたらいいか。体調のわずかな変化を見逃さないことである。膵臓がんは40代から増え続け、60代でピークを迎える。男性は女性の1.3倍。まず、こういう特性を知っておくことだ。
 膵臓は、周辺臓器である十二指腸や胆管などと密接な関係にあるため、これまで紹介した肝臓や胆管にがんができたときと似た症状が出る。3大症状と呼ばれているのが、「黄疸」「腹部・背中の痛み」「体重の減少」である。黄疸については以前にも触れた。腹部・背中の痛みは見逃しやすいので要注意である。単なる腰痛と自己判断しないようにして欲しい。
 また、体重減少も比較的膵臓がんに特異的な症状である。脂肪の分解が膵臓の役割としてあるため、がんができると油っぽい食べ物を受けつけなくなる。さらに消化不良による下痢が生じ、体重がぐっと減ってしまう。その減り方は、他のがんに比べはるかに激しい。
 他には、腹痛・吐き気・倦怠感などが出ることもあるが、とにかく勝手な自己診断が一番危険であることを覚えておいて欲しい。この原稿を書いていたとき、小説家の山田智彦氏が膵臓がんで亡くなったというニュースが入った。心からご冥福をお祈りしたい。

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