医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラム「がんについて」コラム「がんについて」の連載。

4月10日 「がん」について 21
肝臓がんの予防と早期発見

 「排泄物」としての位置付けのせいで、血液よりも尿の方が汚いイメージがある。
 しかし、それは間違い。血液はウィルスの温床として考えると、とても危ないものである。
 肝臓病というと、GOTやGPTがあまりに有名であるが、これらは肝臓の機能をみるための酵素物質であり、一般的な血液検査というときに必ず調べる項目ではあるが、ウィルスの存在まではわからない。
 肝硬変や肝がんになる人は、その大部分が肝炎に感染していることは先週書いた。肝炎になっているかどうかは、HBs抗原やHCV抗体を調べる。ウィルス性の肝炎にかかっていても、自覚症状もなければGOTやGPTの検査値に変化もないことがあるから、肝臓の機能と一緒に肝炎ウィルス感染の有無も調べることが必要である。さて、肝炎ウィルスの検査が、「プラス(陽性)」だったらどうするか。
 ここでむやみにあわてふためくことはない。まず、HBs抗原陽性の場合は、肝臓にB型肝炎ウィルスが存在し活動していることを表し、これを「キャリア」と呼ぶ。
 また、HCV抗体陽性の場合は、「過去にC型肝炎ウィルスが入ったことがあるが、現在も感染した状態かどうかまではわからない」という意味である。HBs抗原陽性の場合は、ウィルスの種類を調べる検査をし、治療方針を決めていく。
 一方、HCV抗体陽性のときは、実際にウィルスの存在を確認する検査をし、ここで陰性と出れば単に過去の感染を反映していることになる。また、逆にウィルスが確認できたときも、症状がない単なる保菌者なのか、実際に肝炎を起こしているのかどうかを調べていく。
 B型、C型両者を比べると、C型のほとんどが段階を踏んで肝硬変や肝がんに移行していくのに対し、B型の場合は、慢性肝炎から以後の予測がつきにくく、だからこそ、定期的な検査が重要な意味を持つ。C型からがんになるケースの方がB型のそれよりも多いのだが、実際は、20年、30年と月日がかかる。
 肝炎にかかっていることをやたら気に病んだり、GOTやGPTなどの肝機能のわずかな変動に一喜一憂するよりも、慢性肝炎を抱えつつ、1~2ヶ月に1回、エコーなどの検査を定期的に行ない、肝硬変にならないよう心がけることである。
 そうすれば、健康な人と全く同じとはいかないまでも、かなり長い間普通の生活ができるものである。
 ただし、ウィルスの存在を知らなければ、定期的な検査をすることもなく、アルコールを控えることもないのだから、寿命はずっと短くなる。だからこそ、ウィルスの検査を行ない自分の肝臓を知っておこう、と勧めるのである。
 肝臓は症状が出にくく「沈黙の臓器」といわれ、体重60キログラムの人で1.2キログラムもの重さがある。肝炎にかかったら、物言わぬ重鎮な働き者の肝臓を、大事に可愛がる気もちを持つことである。

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