医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラム「がんについて」コラム「がんについて」の連載。

4月3日 「がん」について 20
肝臓がんが増えている

 近頃、新聞紙上で肝炎を取り上げるケースをしばしば目にする。
 肝炎ウィルス感染の有無を血液検査で調べようと、多少の啓発をこめた内容に受け取れる。肝炎ウィルスにに感染していても、すべての人が肝がんになるわけではないが、逆に肝細胞癌の90~95%がB型かC型の肝炎ウィルスに由来していることがわかっている。つまり肝炎ウィルスに感染している人は、そうでない人よりも肝がんになるリスクはものすごく高い、ということだ。
 新聞の記事はその点のアプローチがまだ甘い気がする。むやみに恐れる必要はないが、肝がんで亡くなるのを予防するには、ぜひとも肝炎の検査を受けるべき、との強いインパクトに欠けている。ここは難しいところなのだが、恐怖心を植えつけてはまずいという思いが全面に出ると、どうしても消極的な内容になってしまう。日本のB型C型ウィルス保有者は、それぞれ250万人とも300万人ともいわれている。
 肝がんで亡くなる人は年に3万人である。男性では肺がん、胃がんに次いで多い数字である。中には無症候性の場合もあるが、感染者のうちの何人かは肝硬変になり、肝細胞がんに移行していく。したがって肝臓がんによる死亡はしばらく増えつづける、とういのが定説になっている。
 B型については、母子感染を念頭に置いたワクチンの接種が妊娠時から考慮され、一応の予防・早期発見システムが働いている。むしろ、ウィルス自体の発見が後発のC型についてはほとんど対策が練られていない。C型の感染は、ウィルスが混入した血液を輸血された、あるいは不適切な、清潔でない医療器具を使った、などが原因で起こる。
 いずれも現在では起こり得ない、解決された問題であるが、数十年前には知らなかったが故に放置されてきたことなので、昔の感染が生きているケースが要注意なのである。
 「感染」とか「うつる」というのは、どうにもイメージが悪い。やたらに過剰な反応になりがちである。
 しかし、風邪と違って、咳やくしゃみでうつることはないし、まして一時問題になった就職拒否など、まったくのナンセンスである。ことウィルス関係になると、途端に「ひとごと」として闇の中で処理してしまいたくなるのは、もうやめにしなくてはならない。
 すでにハンセン病の時も、エイズの時にも私たちは過ちを冒してきた。C型肝炎は江戸時代からあったらしい。ただわからなかっただけのことだ。無知のままでいたほうがよかった、知らぬが仏でいたかったという声も聞こえてきそうだが、残念なことにこの文明の時代、無知でいることはもはや許されないのである。
 まず真実を知って、さてそれからどうする、ということろが肝心なのだ。

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