医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラム「がんについて」コラム「がんについて」の連載。

3月20日 「がん」について 18
めったにないけど、気になるがん

 非常にまれだが、気になるがんというのがある。
 例えば「陰茎がん」。文字通り、陰茎に発生するがんで、その発症は男性のがんの1%以下だというから、予防伝々に神経を使う必要はないかもしれない。しかし、放っておけば転移することもあり、一応は知っておきたいがんである。
 陰茎がんは、痛みを感じないことが多い。陰茎の皮膚から発生するので、肉眼で見て「あれ?」と思うことがあれば泌尿器科を受診したほうがいい。時に排尿困難やがんから出血をしたりすることがあるが、場所が場所なだけになかなか病院へ行く気にならないかもしれない。
 しかし、発見は早めに、が基本。その病態によって病気がⅠ~Ⅳに分けられ、治療はⅢまでであれば外科手術の適応になる。基本的には病変を切断しなければならず手術後は性交が困難になるため、人工的に陰茎を形成することもできる。これは前立腺がんと違ってそのものに直接メスを入れるので、バイアグラ以前の問題になる。
 15年ほど前に、陰茎がんで手術をした、まだ60代初期の患者と出会った。奥さんはまだ50代だったと思う。ご夫婦とも明るい方で、このあたりの心配は何もしていないように見えた。本当は、色々と聞きたいことや不安を訴えたりしたかったのだろうと、今になって思う。互いに遠慮があって、肝心なことに触れないままになってしまったことは申し訳なく心残りである。
 さて、もうひとつ、精巣(睾丸)にもがんができる。精巣は、男性ホルモンを分泌すると同時に、精子を作る働きをする。男性にのみ発生するが、10万人あたり1~2人くらいの頻度である(ちなみに前立腺がんは10万人に10人以上)。
 このがんの特徴は他のがんが加齢にともなって増えてくるのに対し、好発年齢が乳幼児と思春期以降の若い世代だという点である。多くは、陰のうが腫れて大きくなっていることやしこりを触れることで、「おや」と気づかされる。痛みや熱を持ったりすることはほとんどない。
 陰茎がんもそうだが、検査でというより、自分で変だなと気がつくことのできるがんである。あまり神経質になることはないが、幼いときには周囲の大人が観察しておかねばならないだろう。日本の医療は、「病気」のみを見て患者を診ていないと批判されることがある。がん組織を切り取ってしまい、命があればそれでよし、とする。
 最近になってようやく患者の「生活の質」を重視しようという声が聞こえるようになった。掛け声かけねばないないところに問題がある。自分にとっての「生活の質」をどこに求めるのかは、専門家の意見を聞きつつ自分で決めなければならないことだ。
 とくに、隠れやすいこのようながんについては、患者みずから貪欲になってあれこれ尋ねて欲しいものだと思う。

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