医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラム「がんについて」コラム「がんについて」の連載。

3月13日 「がん」について 17
バイアグラのこと

 子宮がん、前立腺がんと生殖器に関するがんを続けて取り上げたので、ここでバイアグラについて触れておこうと思う。
 バイアグラは、周知のとおり勃起不全を改善する薬としてアメリカで普及したのちに、現在では日本でも医薬品承認を受けている、男性にとって極めて関心の高い薬物である。前立腺がんの治療、手術で勃起不全になっても、バイアグラを使用することによって再び勃起が可能となる。
 ゆえに、その種の後遺症を心配することなく安心して前立腺の治療を受けることができる、という記述も最近の医学書にはある。バイアグラは、勃起を阻害する体内酵素の働きを弱めることにより勃起を促進させる薬であり、性交の1時間前に1錠飲むだけで、勃起やその持続が可能になる「夢の薬」といわれている。薬であるから当然副作用もあって、頭痛・立ちくらみ・依存症などに悩まされることがある。また、健康な人が服用した際に、勃起したままになってしまう「持続勃起症」に陥ることもあり、皮肉にもこうなってしまうと治療が大変に難しくなる。
 さらに糖尿病や高血圧患者には投与が禁止されており、高血圧の人が服用して実際に死亡した例が承認前後には盛んに紹介されていた。バイアグラへの期待があまりに大きかったために、警鐘を鳴らす意味もあったのだろう。
 生殖器のがんの治療によって、性交ができなくなる事態は、当人にしてみれば相当に苦痛な状態であり、そのことにこだわって手術を躊躇したために命を落としてしまうのも残念だ。このような薬は歓迎されるべきだと思う。しかし、バイアグラは医薬品として承認されながらも、医療保険の適応にはなっておらず基本的に「自費扱い」である。
 その理由として厚生省は「(バイアグラは)勃起不全を一時的に改善する効果はあるが、根本的に治すのではなくて、生活の質を改善するもの」としている。
 いかにも、といった文面だが、しかしそもそも病気を「根本的に治す薬」など存在しないのだし、「生活の質を改善んするもの」だからこそ歓迎すべきだとも思うのだが...。
 どうやらこの種の薬物、つまり悪いところを治すというより「快楽」を求めるような類のものは、あまり好まれないような気がする。
 知人の男性らに聞くと、バイアグラ経験者は概ね満足しているように見受ける。しかし、バイアグラ男性と関係を持った女性の評は必ずしも高くはない。中にはあきらめていた男女の関係を復活できて喜ぶ声もあるが、多くの女性にとって大事なのはまず「愛情」であり、機能だけ回復してもそれほど嬉しくはないのだろう。
 しかも、機能に自信ができると色々な場所で試したくなる男性もいるらしく、結構やっかいな問題も生まれているようだ。

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