医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラム「がんについて」コラム「がんについて」の連載。

2月27日 「がん」について 15
前立腺がんを知ろう

 子宮がんや乳がんが女性の代表的ながんだとすれば、男性特有で、しかも近年増えているがんが前立腺がんである。
 欧米では20%、日本では3.5%...。
 これは、すべてのがん死亡のうち、前立腺がんによる死亡者の占める割合である。欧米よりははるかに少ないが、それでも食事の変化によってその死亡者数は増えており、最近の死亡動向をみると20年間で3倍もの増え方を示している。
 前立腺は、膀胱の出口に尿道を包むようにあって、縦センチ、横4センチくらいで栗の実の形をしている。前立腺の働きは、精液の30~40%にあたる前立腺液の分泌である。前立腺は、尿道を囲む内腺と内腺を包んでいる外腺とに分けられ、前立腺がんは外腺にできる悪性腫瘍のことをいう。内腺が大きくなるのが前立腺肥大症で、両者ともにその自覚症状は排尿障害である。つまり、「頻尿」「残尿感」「勢いがない」「時間がかかる」などである。前立腺肥大症は一種の老化現象であり、病気ではないとの風潮が強かったために、こういった症状を我慢してしまうことも多かったが、実は前立腺がんであった例もあるから根拠のない思い込みは危険である。
 前立腺がんは、45歳以下の発症はまれであり、50歳から徐々に増え、80歳代になると1年間にこのがんにかかる人数は10万人あたり200人以上にもなる。
 なぜ、前立腺がんになるかの詳細は分かっていないが、60歳以上になると5人にひとりの割合で潜在がんを認める。
 この数字には人種による差はないのだが、日本人ではそのうち、治療を必要とするがんは1割ほどで、あとの9割は進行が非常に遅く臨床上は問題がないものである。動物実験によって高脂肪食が前立腺がんを発症させることがわかっているために、潜在がんを年齢的なものとすると、それが重大ながんになるかどうかは、まさに食事内容そのものにかかってくるのだ。
 女性が、子宮がん検診に抵抗を示すのは、内診台にのぼることが嫌だからである。出産経験がある女性ならもう恥ずかしくはないでしょう、と言う産婦人科医があるが、とんでもないことで、いくつになってもあの格好をさらす事態など、できたらお断りしたい。一方、前立腺がんの検診法のひとつに「直腸診」がある。肛門から指を挿入して直腸を通して前立腺に触れ、しこりの有無をみるのである。
 2月15日号「週刊新潮」に、ジェームス三木氏が直腸診を受けた様子が、自分の検査データとともに事細かに書かれてある。申し訳ないが笑えた。内診台に身を横たえた女性が覚えるのは「屈辱感」であるが、この場合の男性はさらに「こっけい」である。ジェームス三木氏はそれを「ぶざまなポーズ」と定義する。確かに。子宮がんも、検診によって早期に発見できれば予後は良好である(図)。しかし、やはり検査を受けるというのは大変なことであり、我々現代人は実にやっかりな時代を生きているものだと、つくづく思った次第である。

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