医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

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コラム「一刀両断」コラム「一刀両断」の連載。

9月10日~9月25日掲載
「マンモグラフィ」より大事な自己触診

 乳がんが増えるにつれ、見落としの多さにまつわる話もよく耳にする。そんな折、9月8日付朝日新聞の一面に「乳がん検診、視触診のみ廃止へ」の記事が掲載された。従来市町村の乳がん検診は視触診が中心だったが、それのみでは死亡率減少効果がないことやX線で撮影するマンモグラフィが台頭してきたことから、視触診のみの検診を中止し、マンモグラフィの普及拡大に着手するとの内容だった。技術の勝った検査方法が開発されれば、それ以前に行われてきた方法を見直すことは当然なので、マンモグラフィ導入を推進する動きを否定する理由はない。少し前は乳房をかなりの圧力で挟んで撮影するマンモグラフィは、乳房の小さな日本人には向かない、の声もあったが、そんなことを言っている場合ではないほどに乳がんは増え、その罹患率は女性では胃がんに次いで多いがんとなった。しかし、マンモグラフィよりもっと大事なことがある。それは、自己触診の普及である。乳がんを疑って外来を訪れる女性の80~90 %は、自分でしこりや異変に気づいたことがきっかけとなっている。つまり自分で自分の乳房を触れる「自己触診」が大きな役割を果たしていることになる。ところが、この自己触診を定期的におこなっている人はものすごく少ない。聞いたことはあっても面倒でやっていなかったり、まったくやり方を知らなかったりする。自分でしこりに気づいて…とはいっても、「偶然に」、「ふとしたきっかけで」、「何かの拍子に」、あれ?と思ったというケースが圧倒的に多いのだ。もうひとつは情報開示と医師のレベルアップだ。このレベルアップとは、専門医を増やせということではない。自分が専門でなかったり、診断に自信がなければ、そのことを患者にはっきり告げ、ではどこに行ったらいいのかを具体的に示す常識的な行為を意味する。せっかくしこりに気づいて病院を受診しても、かかった医師が専門医でなかったために見落とされるケースが多々報告されている。がん細胞の有無を調べる細胞診の結果「がんではない」といわれたのに、数ヶ月後にしこりが大きくなって再度他の病院を受診したらがんだったという話が結構あるのだ。もともと、どこの病院にかかったらいいのかわからないのが現実で、それどころか内科か産婦人科か外科のどこへ行ったらいいのかもはっきりしない。「乳腺外科」と標榜してあっても、医師が必ずしもベテランとは限らず、やはり見落とされる場合もあるほどだ。より小さながんを見つけるマンモグラフィの普及もけっこうだが、そうしている間にも乳がん患者は発生し、見落としのためにやり場のない怒りを抱く人が次々と出るだろう。しかも現在でも乳がんの検診率は12% と低迷している。わざわざ時間を作って出かけなければならない検診のあれこれを論ずるより、自分でできる自己触診の推奨を徹底的にしないのは何故だろう?乳がんの細胞診は、判断が非常に難しいと聞く。マンモや細胞診を行った結果「異常なし」とされても、引き続き自己触診を続け、しこりが消えなかったり何かおかしいと感じたら、ためらわずに再度他の病院を受診することが必要だ。ときには医師の言葉を丸のみせずに、自分の直感を信じる勇気を持ちたい。文字通り「自分の健康は自分で守る」しかない。早急にすべきことは、自己触診の必要性とその普及、そして専門医がどこにいるのか、見落とされたケースについての情報などを、あらゆる手段を使って国民に知らしめることである。

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