医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

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コラム「一刀両断」コラム「一刀両断」の連載。

4月8日~6月11日掲載
「患者不在の医薬分業」

 医薬分業率が44.5%になったという。長年、その専門性を活かしたシステムを望んできた薬剤師たちは、この傾向をおおいに喜んでいる。少し前まで、病院には薬局があり、診察後必要ならば医師の処方箋に基づいて調剤された薬を病院で受け取る方法が普通であった。薬価差益が大きかった頃は、薬は病院にとって貴重な収入源だったが、医薬分業を段階的に推進するにあたり、診療報酬点数の改善などによって、薬価差益が期待できなくなり、薬局を院内に置いておく経済的メリットは少なくなった。経営面で頼ってきた院内薬局が赤字部門となったのだ。そのため、病院の役割は、処方箋を書くだけ、患者はそれを持って、町の薬局に行き、薬局で薬を手渡されるという方法が一般的となりつつあるというわけ。医薬分業の理念はもっともである。つまり、医師と薬の専門家である薬剤師の役割を明確にすることで、過重投薬や二重投薬、薬の副作用などを防止することにつながる、という。

 かかりつけ医やホームドクターを持とう、といった呼びかけをよく耳にするが、ここではさらに「かかりつけ薬局」を持つことを推奨している。しかし、医薬分業は患者にとっては手間である。何しろ、処方箋をわざわざ薬局に持っていき、お金を二重に取られることになる。しかも院外処方はやや割高になるよう、設定されている。また、処方箋を持って薬局に行くと、病歴や症状、家族歴など細々としたことを尋ねられる。病院での問診とほとんど同じ内容なので、これも面倒くさい。このような点は、もちろん薬剤師たちも承知しているが、それでもこのシステムは患者のためになり、しかも日本は世界的にみても医薬分業が遅れているとして、医薬分業の普及を歓迎している。医薬分業はおのおのの専門性を活かせるというが、それは患者にとっては縦割り仕事のように映る。同じことを尋ねられ、割高感があり、面倒である。専門家たちの横のつながりがあってこそはじめて「専門性」の恩恵が発揮できるものだが、それは今のところほとんど感じられない。また、服薬指導という名目で、患者とのコミュニケーションを図ろうとしているが、その種の教育も充分でない。いったい、医師も含めて現在の医療従事者は、「指導」「命令」「管理」などは得意とするところだが、「相談」「受け入れ」「寛容」の態度はほとんど身についていない。教えられてもいないし、これまでは必要としなかったのだ。

 年々増える医療訴訟件数の内容を見ると、そこには医療の専門家の「説明不足」に対する不満がありありと感じられる。医療は確かに変りつつある。情報公開が進み、患者が声をあげはじめた。しきりに「患者中心の医療」が叫ばれ、医療もサービス業であるといった認識も広がりつつある。患者を様づけで呼ぶのも一昔前には考えられなかったことだ。その変化の一貫として医薬分業が普及しているが、真に患者のためというなら、コミュニケーション技術を身につけ、薬だけでなくあらゆる健康関連の知識を有し、自己練磨を続ける必要がある。果たして、そのような薬剤師がどれくらいいるだろうか。医薬分業率が上がっているのは、薬剤師の役割が国民に理解されたわけではない。様々な医療制度改革によって変ったシステムにやむなく従っているだけのことである。その点で、今のところ国民不在の医薬分業といわれても仕方がない。医薬分業は国民にとっていいことだと堂々と口にするためには、薬剤師自身の向上性いかんにかかっていることを改めて知っておく必要があるだろう。

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