医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

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コラム「一刀両断」コラム「一刀両断」の連載。

2月13日~2月21日掲載
時代錯誤な医療の広告規制

 あまりにばかばかしくて、この欄で触れるのもはばかれるような話題ではあるが、医療の広告規制について一言。医療法という法律によって、医業広告が細かく規定されているのはよく知られているが、時代が変わってもその改正は一筋縄ではいかない。近頃新聞紙上を賑わしている医療改革制度の一環、「サラリーマン自己負担の2割から3割への引き上げ」も同様であるが、この種の問題は、政府と族議員、厚労省、そして医師会などの利害が複雑に絡みあい、国民そっちのけで醜い利害獲得にあくせくする姿をさらすことが多く、国民は皆うんざりしている。医療法第69条により、広告が許されているものには以下の事項がある。

 ・医師または歯科医師である旨
 ・診療科名(これも別枠で定められている)
 ・病院または診療所の名称、電話番号および所在地
 ・常時診療に従事する医師または歯科医師の氏名
 ・診療日または診察時間
 ・入院設備の有無
 ・紹介することができる他の病院または診療所の名称
 ・診療録その他の診療に関する諸記録に係る情報を提供することができる旨

 以上である。当たり前のことばかり、いわば常識上表記が必要なものをあげているにすぎず、これを「広告」と定義すること自体が実に「あほらし」。度々改正を続けてきたとはいえ、昭和23年にできた医療法の存在は、国民にとって自由な情報獲得を奪う大きな壁になっている。もちろん今や広告規制の緩和を訴える声はあちこちから強くあげられているが、いかんせん、医師会はそれに強硬に反対しており、これといった規制緩和にはいたっていない。平成11年厚生労働省大臣官房統計情報部による患者へのアンケート結果がある。これは、患者が医療機関にどのような情報を欲しいと思っているかを尋ねたものである。それによるとトップは、外来・入院患者ともに「夜間・休日診療の有無」で、ついで「予約制の有無」「医師の専門分野」「往診の実施の有無」などがあがっている。また、「第3者機関による医療機関の評価」への期待もかなり高い。「夜間・休日診療の有無」、「予約制、往診の実施の有無」は、後に「厚生労働大臣の定める事項」として表記してもいいと決められたが、いずれも「広告」というより「表記すべきもの」あるいは「義務づけ」といった色合いの強いものばかりと言える。「第3者機関による医療機関の評価」に対しては、平成13年の改正で「財団法人 日本医療機能評価機構が行う医療機能評価の結果」が「広告可」となった。しかし、この財団は、本当に第3者機関といえるのか?その資金源は、厚労省や医師会や日本病院協会やらであり、金をもらう側が提供する側よりも「弱い」立場に甘んじる傾向はごく自然な成り行きである。同財団の事業推進委員や幹事たちが全員男性なのも今どきバランスが悪すぎる。何より、これを第3者機関と名づけて患者らの要求に答えた形を取ったように見せかけていることに対して納得がいかない。この種のアンケートはおそらく選択方式であろうか?私が回答者ならいずれも「隔靴掻痒」、なぜなら欲しい情報はただひとつ、「その病院の私の主治医や看護婦らは、信頼できるのか?私の苦しみや痛みに対して真摯に耳を傾け、きちんと会話ができ、一所懸命な対応をしてくれるのか?」ということであり、その疑問に答えてくれる医療機関の具体的かつ個性のある「顔」である。おかしなことに、インターネットのホームページに対する厚労省の健康政策局総務課の見解は「利用者が自分の意思でホームページを選択し情報を得る形であれば、広告にはあたらない」としており、ネット上での情報公開・広告にはひどく寛大な態度をとっている。「広告」は、いやでも人々の目に触れ耳に入るもので、ネット上でのそれは自ら選んで見るものだから、というのがその根拠である。「選択」とは何と便利な言葉だろう。医療法の基本的な考え方として広告規制は「利用者保護の観点から」広告を禁止している、とある。結局「何も知らなくていい」ということ。「保護」されたくもないのに「保護」してやるよというのは、国民をばかにしているのとほとんど同義である。

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