医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

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コラム「一刀両断」コラム「一刀両断」の連載。

2月5日~2月12日掲載
女性の労働問題は、女性自身で解決しよう

 日本の少子化は、急速に進む高齢化問題とともにしばしば話題にのぼる。先日も人口推計が新たに発表されたが、それによると長期的に見た日本の合計特殊出生率は1.4を割り込むことがわかったという。「これをわかりやすくいえば、1世代替わるごとに世代の人口が30%ずつ減少することを意味している」との解説を読んだが、そう説明されても今ひとつ実感がないのがほとんどの国民の率直な感情だと思う。労働力の減少は、国力を考える上でも極めて深刻な問題であるらしく、厚生労働省の雇用均等・児童家庭局長の岩田喜美枝氏は、先ごろ「雇用均等施策」として3点について説明を加えた。

 それによると、まず1点目は男女雇用機会均等確保対策であり、これは、雇用労働者の40%を占める女性が性による差別を受けることなく均等な機会を与えられ、その能力を充分に発揮できる社会を作るための対策、とのことである。具体的には、ポジティブアクション(職場の男女間の事実上の格差をなくすための企業の積極的な取り組み)とセクハラ対策を指している。

 第2点目は、職業生活と家庭生活の両立支援対策で、その代表施策として、育児や介護を行う労働者の時間外労働の制限などを謳った育児・介護休業法をあげている。

 そして第3点目は、パートタイム労働対策であり、パートタイム労働者の処遇や雇用の安定を促進する政策の必要性を説いている。実際には、国の政策があって法律が作られ、はじめて始動する案件も多々あるだろうが、一方で一応法律として存在しどこかで国民をバックアップしているものの、ほとんど実態とは関係のない政策・法律もあるだろう。例えていうなら前者は老人保健法や介護保険法であり、そのほとんどは行政を窓口にして国民に浸透していくものである。後者は、わざわざ国の立場から「モノ言う」ことだろうか、というべき類のことで、今回の「雇用均等施策」はまさに後者に分類されると思う。

 1点目の「ポジティブアクション」は、企業にその目的を達成するための数値目標やタイムスケジュールを作れ、と迫る。しかし「職場の男女間の事実上の格差をなくす」のは、企業のトップも含め働く人々が葛藤を重ねつつ現場で作り上げていくべき目標であり、数値目標などを立てる時間も暇も企業にあるはずがない。セクハラ対策も同じであり、一部法に訴えるべき悪質なセクハラもあるにしろ、ほとんどが取るに足らないものである。法の適応も考慮にいれながら日常の中でセクハラ対応もできない人間に、果たしてまともな仕事ができるものだろうか。

 2点目は、女性の職務の継続をさえぎる最たるものであり、ずっと遡上にあげられてきた課題である。仕事を続けたくても、育児や介護を理由に離職せざるを得ない女性は数多くいるため、ある程度法律でバックアップしていく国の姿勢も必要である。しかし、そのような体制とは別に「害」になっていることも多々ある。それは育児でいえば「三つ子の魂百まで」に代表される古い思い込み(だから、小さなうちは母親が育てることが最適といった考えにつながっている)、女は家庭に入るのが一番幸せなのだという価値観が、本人よりも周囲に根強く存在し、見えない圧力となって居心地を悪くさせている。介護にしても、女性にだけ介護力を求める歴史や慣習、介護は嫁の仕事だとする考え方の浸透など、「世間体」という実態なき魔物に縛られやすい現状がある限りは、こういった法律も機能はしない。また、どんなに立派な法律が整備されても、例えば妊娠初期のつわりに耐え、重いからだで仕事を続けるガッツの有無は結局は本人だけに依存する。

 そう考えると、3点目のパートタイム云々もあまり現実的とはいえない。男女にかかわらず、相当に劣悪な労働条件の企業の存在は淘汰されるべきであるが、現在ではパートタイム制度はいまだ女性たちが「選べる」「便利な」労働形態として貴重である。もともとパートタイマーは、働く側のためにできた形態として生まれたことを忘れてはならない。最近では、パートタイマーの中から責任者を任命したり、ビッグプロジェクトを任せたりする動きがある。それらは様々な労働者と接してきた企業の、現場から生み出された柔軟な「知恵」のひとつである。はじめに国の施策ありきの類のものでは決してない。今回のような「雇用均等施策」の内容は、私にとっては「甘さ」としてしか捉えられない。日本のように、教育水準が高く、真面目で勤勉な国民性を持ちながら、いちいち国の政策を求めるのはいささか幼稚ではないだろうか。いったい女性たちは、自分はどうしたいのか、という仕事に対する「信念」を持っているのだろうか。その上で社会資源を活用し、自分だけの人生を構築していこうとする、いい意味での個人主義や独立心を育んでいるのだろうか。女性の学歴は男性同様に高くなり、チャンスも多々あったはずだが、周囲を見渡せばいまだに男性優位の社会であるその原因は、女性自身にも多大な責任があるはずである。その点をきちんと指摘し、個々の自意識を見直した上で初めてこれらの施策は生かされるのだということを忘れてはならないと思う。

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