医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

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コラム「一刀両断」コラム「一刀両断」の連載。

9月12日~9月30日掲載
ニコチンパッチやガムへの過大評価はほどほどに

 禁煙したい人のための代替療法として「ニコチンパッチ」や「ニコチンガム」が普及しつつある。従来は医師の処方がないと購入できなかったものが、いよいよ大衆薬として薬局で購入できるようになった。すでに米国やカナダではこれらの製品は薬局に陳列されており、誰でも気楽に手にすることができる。米国では医療保険が整備されておらず、入院にしろ通院にしろ、多くの人にとっては病院にかかることが大変な出費につながる。加えて、自己責任の概念が浸透していることからも、このようないわゆる「OTC」が人々の生活に定着しているのがひとつの特徴となっている。日本でも昨今医療費の高騰を抑える目的もあって、様々な施策が、軽い症状であればなるべく病院にかからなくてすむような方向性を示していることが伺える。ガムやパッチを用いる代替療法によってひとりでも禁煙に成功し、それぞれの健康維持に役立つことになるのだと考えれば、これもひとつの時代の流れととらえることができる。だからこそ、ガムやパッチなどの禁煙補助剤が実際にどのような特徴を持ったものであるのか、果たして大衆薬として発売されたときにどんなことに注意しなければならないか、ということも改めて認識しておく必要がでてくる。いったいガムやパッチの効果はどれほどのものなのだろうか。例えば、日本公衆衛生学会で発表された過去3年間の論文を調べてみると、代替療法で禁煙に成功した率は約30%前後である。

 一方で、このような薬を使用せずに禁煙指導を行なった場合の成功率は約25%であった。一見、代替療法の成績がいいように思えるが、前者は治療と薬剤を合わせて8週間分、およそ2~4万円の費用を要している点、しかも禁煙成功率をどの時点で見るかということが統一されていない点を考えると、決して代替療法のほうが勝れているとはいい難い。しかも、胃腸障害や神経症状などの副作用も平均して50%以上に発現している現実も見逃せない。結論として、代替療法は禁煙のための補助としての役割にすぎず、本当に必要なのは禁煙するための動機づけや強い意思であることに変りはないのである。ベースに本人の禁煙に対する自覚そのものがなければ、ガムやパッチによってニコチンを体内に吸収しつつ喫煙を続けるといった、極めて危険な行動を起こす可能性も出てくる。大衆薬として手に入るようになれば、益々その点が危惧されることになる。現在のガムやパッチの広告には目に余るものがある。あたかもこれらによって禁煙が簡単にできるかのような錯覚を起こさせるものが多い。では、代替療法としてガムやパッチが効果的に使われ、人々の健康に貢献するためにはどうしたらいいのだろうか。まず、ガムやパッチの使用法をきちんと指導できる者が存在する薬局で販売されることである。これは、医薬分業が促進され、今後も多くの大衆薬が薬局で扱われることが予想されるため、この点は将来にわたっての重要な課題である。現実は薬剤師不在の薬局も多く存在し、売る製品について、説明と指導、あるいは相談にのることのできる薬剤師が常勤していないという現実は、医療全般の未来構想においても早急な解決が求められると思う。次に、従来の禁煙指導法と代替療法をどのように組み合わせるか、といったことについて考える必要がある。

 日本の喫煙対策は遅れていると言われつつも、数十年にわたって独自の禁煙法を確立してきたグループも存在することから、そのような実績ある方法とこれら補助剤をいかに上手に組み合わせて禁煙希望者に提供していくかを、今後の課題にあげる必要があるだろう。ガムやパッチの性質を考えると、単なる大衆薬としてとらえるのではなく、むしろOTC化を進めるにあたってのひとつのモデル事業としてとらえ、予防医学分野における役割を担うものとして慎重に取り組む姿勢が重要である。

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