医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラム「がんについて」コラム「がんについて」の連載。

10月16日 「がん」について 48
癌学会とがん予防2

 専門家や研究者のための専門領域区分が、そのまま病院の診療科目になっていることが多いが、実際どこどこのがんです、と診断がつくまでにはいくつもの検査や診察が必要である。
 肺がんの自覚症状は微熱や血痰だけとは限らず、肩こりや筋肉痛のようなものから始まることも多いし、背中が痛むため肝臓系が悪いのかと思ったら、膵臓に異変を認めることも珍しくない。
 最初に素人が感じた症状や異常から、受診すべき病院の診療科を正確に選ぶのは案外難しいものだ。
 北海道富良野の病院医師が、ハーブを中心とした漢方を人々に投与してみたところ、少なくても風邪に関しては前年より患者が半減し、医療費の削除に非常に役立ったという。
 固定化された観念のもとで細かく臓器別に診ていくよりも、からだ全体を対象にした、いわゆる「東洋医学」を予防の位置づけでうまく活用すると、案外思わぬ効果が表れることがある。
 明らかに医療費にまで影響を与えたという事実は、厚生労働省あたりも参考にしてはどうかと思う。
 さて、今回の癌学会では、改めて予防の重要性が認識された。
 この背景には、研究者自身に、がんに対し「治療」とか「撲滅」といったがんそのものに対する取り組みを前面に打ち出したやり方だけでなく、がんにならないためにはどうしたらいいか、といういわゆる「予防」にも目を向けていかないと、到底がんの発生率や死亡率に太刀打ちできないとの認識があるのだと思う。
 また、生活習慣病の罹患率や死亡率が減少したアメリカを見習って、やはり生活習慣を改めれば、予防に大きく貢献できるのだとの前向きな自信と展望が強まったことにもよる。
 アメリカの成果ははっきり数字にも現れており、一九九二年から一九九八年のがんの発生率が史上初めて年平均一.一%減少したことがわかっている。これは、喫煙対策を確実に実施し喫煙率を低下させたことや、児童の頃から検診や生活習慣改善の指導を行うことで、ひいてはその親に対しても予防意識を高めてもらおうという試みが成功したこと、などの成果による。
 日本では、とかくアメリカに追随する傾向が強いが、もちろん今回のような後追いと結果的にアメリカ同様の成果を挙げることができるかもしれない、との期待は歓迎すべきことである。
 では早速アメリカ並みに…と考えたところで、実際にはいくつものハードルがあったり長い間の固定観念が邪魔をしてなかなかうまく進まないのが現実でもある。
 昨年ごろから、ようやく「健康日本21」なるものが登場し、このような動きに拍車をかけたようにもみえるが、さらにクリアーしなければならないことはいくつかある。
 さて、今一番必要なことは何だろうか。学会ではそれぞれの立場から予防の重要性を訴える声があがったのだが…。

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