医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラム「がんについて」コラム「がんについて」の連載。

7月3日 「がん」について 33
油断禁物の皮膚がん

 「まさか今どき、裸ン坊保育をしているお母さんはいないでしょうね」…。
 まさに裸ン坊保育に何の疑問を抱いてなかった私は、この言葉にぎょっとした。
 日本最大のNPO「地球村」の代表者である高木氏にこう指摘されたとき、あまりにも紫外線に無頓着だった自分を恥じた。俗に「日光浴」というのは気持ちがいいもので、適度に日に当たることは気分転換になる。確かにそうだ。
 しかし、環境問題の観点からいえば、そう手放しではいられない。強い直射日光を浴びることは、遺伝子変異を起こし皮膚がんのリスクファクターとなる。
 太陽からの紫外線のうち、波長が中くらいの紫外線は、放射線に被爆するよりもはるかに敏感にがん発症に影響を及ぼすといわれている。
 特に近年オゾン層の破壊が進み、危険な紫外線が地上に浴びせられるようになったために、皮膚がんは世界中で増えている。地球は、大気圏におおわれ、上空には空気の薄い「成層圏」がある。
 この層にオゾンが含まれ、紫外線のなかの危険な物質を吸収してくれる。オゾンの働きによって、長い間私たちは紫外線から守られてきたといっても過言ではない。
 南極大陸の上空にオゾンがほとんど存在しない「オゾンホール」が確認され、赤道周辺には強い太陽光線が降り注ぐことがわかった。
 どちらも日本からは遠い地域のためか、皮膚がんはあまり深刻に受け止められてはいないが、オーストラリアやニュージーランドでは、がんといえば皮膚がんを指すほど深刻な問題となっている。
 また、肌の色が薄い人種ほど紫外線の影響を受けやすいので、アメリカでも皮膚がん罹患者は大きく広がりつつあり、その発症率は日本人の10倍以上であるという。
 皮膚がんは、そのほとんどが表皮という皮膚の一番外側にできるため、肉眼で見ることのできる数少ないがんといえる。
 最も多いのが「基底細胞がん」で、顔面など日光のあたる部分、特に目の回りや鼻、その周囲に頻発する。
 始めは黒いコブのようだが、次第に中央に潰瘍ができ、進行すると筋肉や骨まで侵すこともある。また、次に多い「有棘細胞がん」は、日光の当たる場所やけがややけどの跡で硬くなった皮膚にできることが多い。
 前者のがんは転移することがほとんどないが、後者は肺や肝臓転移することがあり、早目に見つけられるよう、時々顔や古傷をチェックしておく必要がある。
 今でこそ、日焼けどめクリームやローションなど数多くあるが、どちらかといえばそれらはファッション感覚で売り出されている。皮膚がん予防の意識はそれほど高くないだろう。
 一時、真っ黒な化粧が「ガングロ」といって女子高校生の人気を呼んだが、ファンデーションではなく紫外線で黒く焼いたとしたら、今後要注意である。
 若いときのツケは必ず回ってくる、とよくいうが、皮膚がんのような、まさに命に関わるツケこそ、甘く見ることのないよう心したいものである。

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