医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラム「がんについて」コラム「がんについて」の連載。

6月26日 「がん」について 32
膀胱がんはスモーカーに多い

 どの新聞にも「訃報欄」というのがあり、著名人やその周辺の人々の死亡情報を日々目にすることができる。何があってもそこだけには目を通すという人もいる。
 おおざっぱに眺めているだけで、日本が長寿社会であることや、増えているがんが何かということを何となく理解する。消化器がんでは胃がんや大腸がんなどが多く目につき、高齢者は肺炎で亡くなる率が高いことも認識できる。
 「訃報欄」は日本全体の死亡動向の縮図である。めったにお目にかからない病名は、やはり罹患数も死亡数も少ないといえるし、予後のよい病気なのだろうと推測できる。その欄の中に膀胱がんの文字を見出す機会は少ない。
 強く記憶に残っているところでは松田優作が膀胱がんで死亡したというもので、かなり前の話になる。
 膀胱がんによる死亡者数は年に五千人程度、男性が女性の三倍で、四十歳以上に発症するというのがほぼ定説になっている(松田優作は三十九歳だった)。
 日頃から、膀胱を意識して生活する人はあまりいないだろう。
 消化器であれば、異変が起こったときに食欲や好みの変化として反映されるから割に敏感だが、膀胱のように排泄物を一時的にためて置くような器官は、せいぜい尿を我慢したときぐらい、それも排尿後はすぐに忘れてしまう。
 膀胱がんのリスクファクターとしては喫煙が一番にあがり、非喫煙者の約二倍~三倍の罹患数である。その他、仕事の上で使用されるアニリン系色素を扱う人は膀胱がんになりやすいことがわかっている。
 例えば、皮革やゴムの製造加工業、金属加工業、美容師、トラック運転手などがそうである。初期の症状は「血尿」で、特に痛みを伴ったり何らかの予兆を覚えることもないので、逆にびっくりするかもしれないが、血尿が続けてないからといって安心しているうちに、突然また起こる。
 その時点で受診をすれば命を落とすことはまずない。しかし、がんが進めば排尿痛や排尿回数が増えたり尿意があるのに排尿できない、などかなり苦痛を伴った症状が出てくる。
 松田優作の遺作「ブラック・レイン」を見るたび、彼がこのような苦痛に耐えながら撮影にのぞんだことに心を打たれる思いがする。
 他のがんにもれず、膀胱がんも初期であれば膀胱鏡でがんを見ながらメスで切除でき、予後はいい。
 しかしがんが広がっていると膀胱全体を摘出しなければならず、その後なくなってしまった膀胱の代わりとして、小腸などを利用して尿路を作る手術を行わなければならない。
 早期に発見できた場合と、気づかず見逃してしまった場合とでは天と地ほどの大きな差が出てくる。運がよければ早めに発見できる例もある。
 ある七十歳の女性は、簡単な尿検査がきっかけとなってわかったし、八十歳の男性は、はじめての人間ドックで偶然見つかった。
 ふたりとも、我が身の運の強さに感謝してもしきれないと、といつも話している。
 血尿の出る病気・膀胱がん・膀胱炎・尿道炎・膀胱結石・前立腺肥大・突発性腎出血など*血尿といっても茶色に近い色、コーヒー色や逆に淡いピンク色など様々である。

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