医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラム「がんについて」コラム「がんについて」の連載。

5月15日 「がん」について 26
検査は楽がいい

 検査と聞いただけで、恐怖心にかられる人がいる。逆に、検査や病院に行くことが、好きとまでいわないが、割に抵抗のない人もある。
 いずれにしても、痛い検査や血を見るようなものは、嫌だ。特に男性は血に弱く、怖がりである。何であっても楽にできるに超したことはない。
 肝・胆・膵あたりの比較的「難治がん」ばかり続けて取り上げてきた。
 治るのも難しいというなら、まず見つけるのも難しいものだ。しかし、医学は確実に進歩している。今の定義はあと数年経てば、また違ってくることだろうと期待もしている。
 痛くない検査といえば、消化器では「超音波検査」があげられる。経験した人も多いと思うが、これは絶食が必要であるが検査そのものは苦痛ではない。
 超音波の歴史は意外に古く、1888年ふたりのフランス人が圧電気効果を発見して以来で、以後超音波の研究が行われるようになったという。1900年代半ばに入って、医学への応用が進んできたが、最初は頭部の検査に使われたらしい。
 その後、日本無線社による装置を用い、脳や胆のう、乳腺の検査に用いられた。当時の機械は、旧式のラジオのようにも見える。
 時ほとんど同じくして、ふたりのスウェーデン人が超音波を心臓の検査に使った。ときに遠く離れた国で、ほとんど同じ時期に同じような技術を発明することがあるが、これはどうしたことだろう。どちらの発見・発明が早かったのか、争うことが歴史上まま見られる。
 近いところでは、エイズウィルスの発見をめぐってちょっとしたいざこざがあったばかりである。しかし、これにはカラクリがあった。偶然のように見えても、ホントのところは人為的なものが働いているのかもしれない。
 さて、1970年に入り、超音波は急速に進歩を遂げる。今では胆のう結石は98%の高い診断率をあげることができる。
 肝臓では、慢性肝疾患や良性・悪性腫瘍の診断や経過観察に用いられている。肝炎にかかった人は、血液検査とともに肝臓の様子を超音波で定期的に観察する。
 膵臓では、膵実質と膵管の描出が造影剤を使うことなく可能である。
 場所によってはとらえにくい場合もあるが、膵臓がんの発見は、超音波とCT検査で約80%近くが診断されている。
 一方で、この種の検査は、客観的でないというデメリットがある。機械そのものが日進月歩で進歩しているため、ちょっと旧式のものだとぐんと精度が劣るような気がする。
 また、画面を観察するのは「人」であるから、当然間違いや見落としもある。こういう場合の見落としまで医療過誤にカウントすると、日常茶飯事並みに増えていく。
 20年前に、ある医師が「患者にとって楽な検査は必ず普及する」と言っていた。
 あたり前のようだが、患者の尊厳、QOL(生活の質)などの概念は今ほど普及していない時期だった。本当は「少しでも被検者が楽なように」の優先順位がいつでも一番高くなければいけないのだ。

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