医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラム「がんについて」コラム「がんについて」の連載。

2月20日 「がん」について 14
性生活と子宮がん

 経済新聞を読むのは圧倒的に男性である。
 子宮がんの話しには興味がわかないかもしれないが、性生活に関係するがんであることを考えると、あながち無関心でもいられない。
 女性なら子宮がん、乳がん、卵巣がん、男性なら前立腺がん、睾丸がんは、まとめて生殖器のがんと呼ばれ、治療後の性生活に密接な関係がある。子宮がんは、胎児の部屋ではあるが早期に発見できれば、その後の妊娠や性生活に何ら支障はない。
 子宮頚がんは、がんが粘膜内にとどまっている0期、がんが基底膜を破った状態のⅠ期、骨盤内に広がるⅡ期、さらにがんが骨盤壁や膣壁に広がるⅢ期、そして膀胱や直腸までに及んだ場合はⅣ期、と分類される。0期は、ほとんど無症状であるから、検診によって発見されることが多い。日本は、胃がんに代表されるように検診の進んだ国である。胃がん同様、子宮がんもかかる人の多さには変わりないが、死亡数が激減した要因のひとつは、検診の普及にある。
 さて、0期で発見されると、色々な治療法を選ぶことができる。レーザー光線で焼き切ったり、電気メスを使ったり、子宮の入り口を切り取ってしまう方法などである。単純に子宮を全摘する場合も、膣から取り出す方法とお腹を切って取り出す方法とがある。
 いずれも0期であればほとんど100パーセント治るために、例えば民間の医療保険の中には0期はがんであってがんにあらずとみなされ、保険給付の対象にならない場合もある。
 Ⅰ期以上になり、がんが子宮の外に出たり膣の方に進んだりした場合は、子宮だけでなく骨盤内のリンパ節や周囲の組織も取っておいたほうが安心ではある。また、高齢者や肥満、重い合併症がある場合やⅢ期やⅣ期になれば、手術ではなく放射線療法で治療をし、場合によっては化学療法、つまり抗がん剤が投与される。
 性に関することは個人差が大きい。若年者はともかく、中高年者は性に対して未だ控えめである。医者に向かってフランクに質問できない状況もあって、手術後の性生活についての不安をなかなか口に出せないでいる。
 子宮や前立腺を取ったりホルモン療法を受けたりすることを頑なに拒む人がいるが、よく効けば、実はもう女じゃなくなる、あるいは男性機能がなくなってしまうことを恐れての場合が結構ある。
 子宮を摘出した場合、最初は膣が多少短くなっているが、時間がたつにつれて違和感はなくなる。問題は、知らないでいることによる不安や恐怖、精神的ダメージによっておのずと性生活から遠のいてしまうことである。
 以前、ある男性から相談をうけたことがあった。性交渉を持ち続けた女性が子宮がんであることがわかった。
 彼は、「がんがうつりませんか?」と聞いてきた。もちろんそんなことはない。そう話してもまだ不安気で、くどく確認してきた。この人は、彼よりももっと絶望感を感じているであろう相手の女性をちゃんと思いやってくれるだろうかと考えると、ひどく嫌な気分になった。

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